中医学とは
中医学は、東洋医学のことを指します。
日本における中医学の歴史
中医学は中国で生まれ、6・7世紀頃に日本に伝播し、平安時代には中医学はすっかり日本に根付いていきました。 『傷寒論』『金匱要略』『黄帝内経』など中医学の古典となる本が、日本に伝えられるとともに中医学(東洋医学)は日本の医学の主流となりました。
その結果日本でも『医心方』という、日本に現存する最古の医学書が編まれています。この本は、隋・唐の200 部以上の医書を元に編纂され、全30巻になる同書です。鍼博士(医博士、典薬頭ともいわれる)であった丹波康頼(たんばやすのり)が984 年に朝廷に献上したとされています。
世界における中医学の認識
私たちにもなじみの深い東洋医学という言葉ですが、ただ現在の日本では東洋医学=ツボと漢方薬という極めて部分的な認識にとどまっているのが現状です。
東洋医学の治療を受けようとしている人でさえ、鍼灸治療や漢方薬の治療で疾病や症状が改善されるメカニズムの説明を受けるまで、ほとんどの方が知らないといえます。
中医学は全世界の共通財産であり、米国やヨーロッパ各国はもとより世界中でT.C.M.(Traditional Chinese Medicine)として取り入れられ発展を続けています。
しかし日本の中医学(東洋医学)に対する認識は明治期以降徐々に表面的部分的認識にとどまるようになり、世界の東洋医学のレベルから大きくかけ離れてきてしまいました。
今こそ世界に目を開き、東洋医学の原典であるこの中医学を学ぶことにより、人材を育成し本格的治療が受けられるようにすることは日本の医学の発展につながるばかりか、将来の私たちのかけがえのない財産となるでしょう。
世界の共通認識である東洋医学、すなわち中医学理論による診察、診断、治療というものを臨床を通して普及してゆきたいと思います。
日本中に普及して明治期以前のように中医学が家庭の医学として用いられることを心から願っております。
日本における鍼灸治療への認識の変化
東大病院内における鍼灸の役割は①西洋医学的治療との併用でよりQOLを向上、②薬物の副作用に対する治療、③予防医学的観点からの治療、④体力を向上させ薬の効果を上げるなど、多種多様な疾患・症状に対応することが可能であり、一つの治療選択と認識されつつある。
上記引用文に書かれている通り、西洋医学の中枢である東大病院で、積極的な鍼灸治療がおこなわれるようになっています。日本でも中医学があらためて見直され、一般の医療として定着してゆくであろうことは大変に喜ばしいことです。
中医学による診断と治療はどの様におこなわれるのでしょうか?
中医学の診断と治療~中医学弁証論治~
~診断と証の決定~
中医学による診断と治療は、四診で得られた情報を総合して、どんな病態であるかを詳しく導き出します。病態とは、一つ一つの症状や病名ではなく、疾病の背景にある原因や病邪の性質と盛衰、人体の正気の強弱、疾病の軽重などを総合して表したものです。これを証と言います。すなわち証とは、疾病のもつ総合的な病態を表しています。
※四診とは、望(目で見て得られる情報)聞(耳で聞いて得られる情報、声の音、咳、痰、臭いによる情報など)問(口答による情報)切(体に直接触れて得られる情報)です。四診には、舌診や脈診も含まれています。
四診で得られた情報を分析し、中医学理論を用いて診断と証を決定することを弁証と言い、証に基づいて相応する治療措置を決定することを論治と言います。このようにして治療を行うことを中医学弁証論治と言います。
日本薬学会のホームページでは、弁証論治をこのように紹介しています。
中医学における診断・治療法を示す方法論で,その診察方法は四診といわれる,望,聞,問,切で構成され,これらから中医学的疾病の情報を収集,統合,分析し,診断と証の分類(弁証)を行い処方を決定する診断法である.四進による弁証は,八綱弁証,病因弁証,気血津弁証,臓腑弁証などの弁証法に加え,病位,病因,病性,邪気,正気などを加味して行われる.中でも,その基礎をなすのが八綱で,陰,陽,表,裏,寒,熱,虚,実であり,これらにより人体の正気の強弱,病変部位の深浅,病邪の盛衰などを総合的に分析する手法である.
~必ず行う基本弁証~
弁証には、八綱弁証・臓腑弁証・気・血・津液弁証などがあります。これらの弁証の中には、身体のあらゆる客観的な情報が凝縮されています。病勢の強弱も、人体の持つ自然回復力の強弱も、どこの何をどのように治療したら良いのかも導き出されています。
~病気ではなく、病人を診る~
痛いところに鍼を打つというのではなく、疾病を詳しく分析して導き出された病態に対して鍼をうつのです。
病気に対して鍼を打つのではなく、病人に対して鍼を打つのです。
病気ではなく、病人を診る
これが世界共通認識の東洋医学である中医学の重要な特徴です。
また治療には標治と本治の考え方が不可欠です。標治というのは症状の改善が主な目的であり、一時的な治療措置です。本治というのは発生機序に対しての治療で、症状の原因そのものを取り除く、根本的な治療です。両方一緒に行うことを標本同治といい、これは弁証論治により、決定されます。
中医学弁証論治の魅力
病気の原因は、中医学基礎理論のなかで「中医学から見た病気の原因分類表」に、あらゆる視点から考えられ、まとめられています。それに従って問診していくのです。
問診では、食生活や仕事・精神活動などの日常生活の習慣や、その他の発病因子などをお尋ねします。それらが私たちの心身にどのように影響し、疾病に発展していったかと言う過程を中医学理論を用いて分析するのです。
①どんな病態であるかを把握できる~
中医学に習熟すると,疾病をあらゆる視点から診て,分析できるようになります。どんな病態であるかという、すなわち証をすぐに導き出せるようになるのです。
証が幾つも重なって複雑な病態も五臓の生理など、中医学基礎理論を自在に応用して証を立てる事が出来るのです。
②治療する前から結果を予測して~
治療する前から,治療後の結果や予後(治療後の経過)を概ね、予測できるようになります。どんな治療をしたら良いか、治療する前には確信を持っています。少しでも判断に迷いがあれば、一鍼一鍼、脈を診ながら鍼を打ち、効果を確認しながら治療を行います。
③中医学は謎解きの名人~
慢性疲労でなかなか治らない頑固な疾患も中医学弁証を行えば、その病態が見えてきます。何重にもからんだ糸を想像してみてください。紐解くのは大変な作業となるでしょう。どこから、どのようにすれば紐解いてゆけるか分からないからです。
どこから、どのように治療すれば良いか分かる
しかし、どんなに複雑にからんだ証候も、中医学弁証を行えば、まずどこから、どのように治療すればよいかが見えてきます。
複雑にからんだ糸もほぐれて
治療を重ねてゆくうちに、複雑にからんだ証が一つ一つ紐解かれてゆくことで、病態の発展メカニズムが明らかになり、遂にはいくつも重なった証候も、単純な証に紐解いていけるのです。
④未病のうちに体質を改善する
中医学は、病態の根本的な改善を使命としています。つまり、まだ症状に表れていない未病の段階で疾病の要因を突き止めて、「未病のうちに疾病を改善する」ことを使命としています。
鍼灸の効果
- 鍼灸の効果は、免疫力を高め、自然回復力を最大限に引き出す。
- 鍼灸の効果は、鍼を打った部位の筋肉が緩み、炎症や痛みを取り除く。
- 鍼灸の効果は持続性が高い。
鍼は痛いのか
鍼は痛くありません。鍼は、0.14~0.16㎜を主に使用しています。
髪の毛の太さが、平均0.15㎜と言われています。細く柔らかく、弾力に富んだ上質な日本製の鍼を用いています。痛みはほとんどありませんが、意識すればときどき痛みを感じる程度です。
鍼の安全性について
全ての鍼および器具をスーパーオートクレーブで消毒しております。
オートクレーブで消毒すると、地球上の如何なる菌やウイルスも、完全に死滅します。
オートクレーブは、大学病院などで消毒に用いているものと同じものです。
鍼は、どんな疾患にも対応できるように、高品質で長さや太さも様々なものを揃えています。
鍼の治療回数について
鍼の治療回数は、疾病の軽重と本人の体質、さらに自然回復力がどれほどあるかによって異なります。
硬い筋肉を弛緩させることにより痛みを取り除くことを例に取ってお話しましょう。
畑にほうれん草と人参と大根が植わっている畑を想像して下さい。
ほうれん草のような葉っぱの野菜は根がそんなに深くありません。その根の深さならば、耕すのにそれ程時間がかかりません。筋肉の緊張が痛みの原因の場合、そこをほぐせば(弛緩すれば)よいということになります。ほうれん草の根程度の浅い凝りや、筋力の硬い状態であれば、浅層の筋肉を弛緩させるのに要する回数は、1~2回です。
~根本改善のすすめ~
もう少し根が深い人参の例をとってみましょう。人参の図を見て下さい。
浅層から中層の筋肉まで弛緩させる場合は4~6回です。しかし、1、2回でも痛みが改善することはよくみられますが、一時的によくなったというだけで、完全に改善してはいません。
そこで置くとせっかく治療したのに、またすぐに痛みが戻ってくる可能性があります。
根本的に改善するには人参の図の半分で痛みが取り除かれただけで、治療をやめず最後まで根を取り除くことが重要です。
大根の図を見て下さい。
浅層から深層の筋肉まで弛緩させるためには、おおよそ10回ほどかかります。
一般的に神経痛のような頑固な疾患の場合、筋肉の拘縮が酷い場合が多いです。浅層から深層の筋肉まで弛緩させることが必要なので、最低でも10回は必要ということになります。
鍼治療の回数を重ねることで痛みが少しずつ改善しますが、やはり神経痛の痛みは鋭いので、完全に痛みが取れるまでは痛いという感覚は残ります。本当に痛みが取れるのは深層の筋肉がほぐれる10回程度の治療後になることが多いです。
~噓のように痛みが消えた~
大根で例えた神経痛は、大根(原因)の全てを取り除いて、やっと患者さんの改善の実感が伴うことが多いです。昨日まで痛かったのに、翌日は噓のように痛みが消えたと言われる方が多いです。
疾病の軽重や本人の体質、さらに本人の自然回復力によっては、20回以上、必要な場合もあります。
~医は自然の僕~
医は自然の僕です。施術者が行っているのは、回復力を妨げるものや状態を改善し、患者様の自然回復力を最大限引き出すことです。施術者が治しているのではなく、7~8割は患者様自身が治しているのです。患者様自身が持つ自然回復力で治っているのです。
自らの力を過信しないように、自戒を込めて、治療に臨んでいます。
~医は仁術~
知識や技術は大切ですが、心はもっと大切です。「仁愛の心を本とし、人を救うを以て志とすべし」を胸に刻んで、治療を施しています。
~根本改善に要する回数は~
ちなみに当院の実績で言うと、軽い神経痛では6回、中程度ならば13回、重症な場合であれば20回以上、要しています。
~一回で劇的に改善されても~
首や腰の急性的な痛みは、1回で劇的に改善される患者様もおられますが、慢性的な疾患や根本的な改善を目指すためには表層の筋肉をほぐすだけに留まらない方が良いのです。
痛い時の痛い部位の治療だけに止まり、根本的な改善がなされていないことが多いのです。
~少ない回数でも痛みは治まる~
何故なら、表層の筋肉を弛緩させるだけで、痛みは一時的に治まるからです。
一時的に痛みが取れたら良いというのではなく、当院では疾病の根本改善を目指しています。治療して良くなった状態を、できるだけ維持していただきたいのです。
~健康への高い意識~
当院に来られる患者様は、健康への意識が高く、根本的な改善を望まれる方が多くなりました。積極的に治療に臨んで頂けるので、とても嬉しくやり甲斐を感じています。
当院では様々な難しい症状や疾患に対応しています
どこに行っても改善しない頑固な症状でも改善したいという一心で、技術を高めてきました。中医学弁証と鍼治療、さらに矯正治療を組み合わせ、難しい頑固な症状の改善に日々取り組んでいます。
治療は部分的な急性の痛みを治すだけではありません。
何年も苦しんでいる、坐骨神経痛や手足の痺れ、慢性頭痛、花粉症や喘息などのアレルギー疾患、顎関節症、五十肩などの頑固な疾患でも、体質を改善させたり、免疫力を高めたりすることにより、その人の持つ自然回復力を最大限に引き出し、疾病を根本的に改善してゆくのです。
ゴルフ肘、野球肘、野球肩、テニス肘、陸上、ボクシング、レスリングなどのスポーツ疾患の方の早く練習や試合に復帰したいという要望に応えて、ベストな状態で臨めるように治療面からサポートしています。
筋肉の痛みや関節の歪みを治すだけでなく、便秘やムカつきなどの胃腸障害、膵臓疾患、腎臓疾患、糖尿などの改善されにくい内科系疾患、更年期障害、生理痛、不妊などの婦人科系疾患、皮膚筋炎などの難治疾患にも取り組んでいます。
さらにイライラ・不安・集中力がない・怒り・抑鬱などの精神症状、自律神経失調症、ストレスが原因で起こる恐怖・強迫などの心の病気にも1993年より積極的に取り組んでいます。
また検査では異常がないが体調がすぐれない、身体が疲れやすい、身体が重い・だるい、眠りが浅い、慢性疲労が取れない、、、などにも有効です。
[リンク:慢性疲労がとれない]
その他にも、日常のあらゆる痛みや頑固な疾患に取りくんでいます。
<当院に来られる方のお悩みの一例>
〇何年も繰り返す頑固な頭痛・ひざ痛、アレルギー性鼻炎、むち打ち
〇どこに行っても治らない頑固な手足のしびれ、神経痛、不眠
〇慢性的に繰り返す胃の痛み・食欲不振・便秘などの胃腸障害
〇検査ではどこも異常がないのに身体の疲れが取れない・重い・だるいなどの慢性疲労
〇なかなか治らない五十肩・顎関節症
〇一人で抱え込んで誰にも話せなかった心の悩み・不安・恐怖・抑うつ・ガス・落ち込み
〇皮膚筋炎などの難治疾患の喉の痛み、酷い疲れ、精神不安などの後遺障害
当院が対応している疾患や症状の一例
①運動器系疾患やスポーツ障害 腰痛・膝痛・首・肩・上腕・手首・拇指の痛み。ゴルフ肘、テニス肘、野球肩ほか、バトミントンや陸上、ボクシング、レスリングなどその他すべてのスポーツや武道による身体の痛み。 |
②手足の神経痛やしびれ 肩から上腕にかけての痛み、手指の痛みやしびれ 腰から臀部・下肢にかけての痛みやしびれ |
③上腕の痛み、上腕の挙上障害 五十肩、四十肩 |
④顎の痛み 顎関節症 |
⑤ストレス疾患 イライラ・不安・集中力がない・怒り・抑鬱などの精神症状。 不眠・頭痛・自律神経失調症、、、などの身体症状。 恐怖・強迫などの心の病気 |
⑥検査では異常がないが体調がすぐれない いつも身体が良くない状態。 |
⑦特定の疾患や症状 アレルギー性鼻炎、風邪をひきやすい、風邪が治りにくい、風邪の後の症状がなかなか改善されない、眼精疲労、突発性難聴、皮膚筋炎 |
⑧内科系疾患 風邪、胃腸障害、更年期障害、膵臓疾患、腎臓疾患、便秘やむかつきなど。 |
当院の鍼灸治療について
当院は、中医学弁証論治に基づく鍼灸治療を行っています。治療は、院長が全て行います。
診断と治療は、現代医学的な角度からと中医学的な角度から、両者を合わせて行います。そして、どんな疾病で、どんな病態であるか、疾病の軽重や予後(治療後の経過や結果)を把握し、それらを詳しく説明して理解・納得していただいて、はじめて治療を開始します。–>
中医学弁証に基づく診断の流れ
~現代医学的な視点で、病名を判断~
現代医学的な視点では、来院された時には、既に病院で診察を受け病名が明らかになっていることも多いです。初めて来院される方も含めて、当院では、改めて病名を判断するために、現代医学的な問診や徒手検査を行い、丁寧に触診をします。
~中医学的な視点で、症状の背景となる病態を把握~
中医学の視点では、一つ一つの症状ではなく、症状の背景となる病態をしっかりと把握しています。さらに、舌脈診で立てた証が正しいかどうか、必ず確認しています。複雑にからんだ証候を単純なかたちに紐解き、根本改善をはかるためです。
当院では、このように様々な角度から疾病を診て、特に難しい疾患・頑固な疾患の改善に積極的に取りくんでいます。
脈で身体の状態を把握する
~脈診で緊急性がないかを判断する~
脈診をして最初に確認するのは、今、鍼を打っても大丈夫かどうかです。現代医学的な治療を要する緊急な状態もあるからです。
~脈では、こんなことを診ています~
脈を診る時、証を確定するだけでなく、病邪の勢いや性質、疾病の深浅、疾病に対する回復力や体力、病態の軽重、体質や精神状態を見ています。その人のもつ総合的な健康力を見ています。
~脈は第一印象も大切~
脈診ができるまで10年以上を要しました。脈をさっと診て分かるまで、ほぼ20年が経過しています。脈診は、それだけ大変、難しいものです。
時間をある程度かけて脈の状態を冷静に診断することは重要ですが、同時に脈診においては、脈を診たときの第一印象も大切にしています。
健康な範囲の脈には、幅があります。
~理想の脈とは~
理想の脈を言えば、指を押し上げる力があって、かつしなやかで、一定のリズムがある脈です。これを平脈と言います。
ただ理想の脈は、なかなかありません。
~その人の脈なりを診る~
脈を最初に診る時、平脈と比較するのではなく、少々、リズムや強弱が理想と違っていても、その人の脈なりの範囲であれば良いのです。
脈のリズムが少々速くても、脈圧が強くても、指を押し上げるしなやかさが不足していても、その人の通常の脈の状態なのです。様々な症状はあっても健康な範囲に留まっている脈状なのです。
~脈は見違えるほど変わる~
しかし当然、その中で脈のリズムや強弱、速さなどに問題があれば、証と照らし合わせて何が原因か詳しく分析します。臓腑の生理や気・血・水の流れ・過不足を改善すれば、脈は本当に見違えるほど変わります。
身体にかかる負担を取り除いた状態の脈が、本来のその人の脈なのです。
~舌脈診で病態の変化を常に確認しています~
今日の打った鍼がどのような効果をもたらしたか、また体質がどのように改善されていっているか、脈診で分かるのです。脈診で得られた情報は舌診にも同様に表れるので、舌脈診は常に合わせて行い、証すなわち病態の変化を確認しています。
脈診から現れる身体の異常
脈を診ながら疾病に対応
先日、激しい頭痛の患者様が来院しました。
3歳と7歳の子供が二人いて、共稼ぎで働いているので、非常に疲れているとのことでした。数日前から頭痛が起こり、なかなか治らないと言うことでした。
脈は、毎分90回、そして強く激しく感じられる脈でした。病態は、ストレスの矢面に立って、私たちの身体をいつも守ってくれている経絡の異常でした。原因としては、過剰な精神活動や肉体労働があることも分かっていました。
強く速く指を押し上げる脈は、果たして本来の脈なのかと疑問を持ちました。望診では、疲れた様子は見えても、元気は失ってはいませんでした。ストレスと疲労が極まった一過性の脈では、・・・?
そこで、まず強く激しい脈を改善するために、鍼を一本打ち、脈を確認しました。鍼はそのまま置針し、3本目の鍼を置針しました。使用した経穴は、合谷・太衝・足三里で、気血を巡らせ精神疲労と肉体疲労に対応いたしました。鍼を打った数分後、激しい脈が穏やかになり、脈数も毎分78となりました。原因がはっきり分かったので、確信をもって治療を進めました。
脈は心と身体の状態を表す
治療後は、脈数は毎分72、脈状もとても穏やかな状態になりました。この脈状こそが、この人の脈なりなのです。身体の負担を改善すると、脈状も変わりました。
頭痛という症状は、ストレスと精神過労、さらに肉体疲労が原因でした
この脈状が、この人の本来の脈状なのです。疾病は軽度で、頭痛という症状は、精神過労や肉体疲労が原因でした。
脈は心と身体の状態を表現しています。
さらに、舌診と脈診を同時に診ることで、舌診で得られた情報と、脈診で得られた情報とが同じであるかどうかを確認します。これはまた、立てた証が、双方から見て正しいかどうかを確かめるためでもあります。
脈診では、その人の脈なりを診ます
私ははじめての患者様も、同じ患者様が再び来院される時、必ず毎回、舌脈診を行います。開業して8年経ってから20年、舌脈診を全ての患者様に行っています。
「その人の脈なりを診る」をモットーに取りくんでいます。
脈なりを知ることによって、個々の身体の異常をいち早く察知できるからです。
~心と身体の異常を察知~
脈診で面白いところは、「凄いストレスがありますね、何ですかこのストレスは」「へえ、そんなこと分かるのですか」「風邪、ひいていますか」、「はいひいています。」「脈、いつもよりかなり速いですよ、風呂に入るのは止めましょう、熱が出るといけないですから」など、問診をしても、患者様が気づいていなかったり、言ってくれなかったりしたことも、脈診で隠れた情報が得られるのです。
~治療する前に詳しく説明します~
身体の状態がどうなっているのか、病態を詳しく説明をします。そして治療方針と治療方法を説明します
どれぐらいの期間でなおるか、回復の見通し、回数などを説明し、納得して頂いて始めて治療を進めて参ります。
中医学弁証に基づく鍼治療
☆対処療法としての鍼治療
~鍼は刺激量が一番大切~
対処療法では、痛いところを改善するために直接、鍼を患部や原因となる筋肉に対して鍼を打ちます。
根本療法でも対処療法でも、鍼を打つ時、鍼の刺激量が、一番大切です。疾病の状態とその人の持つ体力の強弱などを分析して、それぞれ患者様に合わせた刺激量に加減します。刺激量を合わせると、身体に無理がなく、鍼が心地よく、効果も高いのです。
~手技が効果を高める決め手 ~
浅いところにあるツボには、浅いところで、ツボが深いところには鍼を深く刺して直接ツボをとらえます。ちょうど良い深さでツボをとらえたら、そこで手技を行い、筋肉を緩めたり、硬結を改善させます。この手技こそが治療効果を最大限高めるのに重要な鍵となるのです。鍼を打つことは、毎日が勉強なのです。
~痛いところに鍼を打つだけが対処療法ではない~
対処療法と言っても、痛い部位と関連する筋肉や、ほかに原因となる部位や筋肉にも必要に応じて鍼を打ちます。
動作は、全身で行いますので、関連部位に鍼を打つことで、患部の痛みが早く改善します。
~鍼の効果を活かして~
鍼には強力な筋弛緩作用があり、鍼を打った部位の筋肉は緩みます。筋肉の浅いところにツボがあっても、深いところにツボがあっても、鍼は直接そのツボをとらえ、手技を施せます。悪いところをピンポイントで改善できるのです。
鍼を抜いた後、リンパ球が集まってきて局所の筋肉を修復させます。その効果は、2,3日、継続します。
鍼の最大の効果は、鍼を打った部位の筋肉が緩むということです。それは、炎症や痛みの改善につながるのです。さらに鍼の効果は持続性が高く、患者様が本来持つ自然修復力を促すということです。
~鍼と灸の相乗効果~
当院は鍼とともに、灸を行います。鍼の効果の補佐や持続性を灸が高めてくれるのです。鍼と灸を用いることで相乗効果が高めることができるのです。
~鍼の効果と温灸の心地よさが、心と身体を癒す~
当院でも灸は自家製の温灸です。袋の中に藻草の材料であるよもぎ、他に玄米、ぬか、塩が入っています。温灸は、身体に合わせていろいろな大きさの温灸を用いています。市販されているものよりも、遙かに持続性が高く、熱が深く浸透してゆくものを作りました。
鍼の効果と温灸の心地よさが、心と身体を癒してくれるのです。
根本療法としての鍼治療
~疾病を回復させるために必要な体質の根本的な改善を行います~
鍼の最大の効果は、免疫力を高め、自然回復力を最大限に引き出すことなので、まず自然回復力を妨げる様々な原因を取り除いていきます。その症状や疾病の背景にある様々な原因や病理因子は、中医学弁証により導き出されています。
風邪や腰痛、顎関節症など、それぞれ一つ一つの疾患を治す場合、必ずといってよいほど、回復を妨げる原因が潜んでいます。
それぞれの疾患で具体的に見ていきましょう。
~風邪を例にしてみましょう~
風邪で咳や鼻が続き、身体が重だるいなどの症状がなかなか治らないとします。咳や鼻は、風邪という疾患の症状の一つかもしれません。
風邪が治らない原因としては、ストレスや肩こり、胃腸障害や心身の疲労が考えられます。また、身体の冷えや血液の流れ、新陳代謝の悪化などが考えられます。これらの原因が含まれていれば、その原因を取り除く治療を、風邪を治すために同時に行うのです。
鍼を打つことで身体自身の正気が高まり、本人のもつ病気と闘う力が強くなり、結果として邪気を追い払い、疾病が回復するということです。
~顎関節症を例にしてみましょう~
顎関節症は、咀嚼筋が緊張して顎の関節の動きが悪くなり、口を開ける時に、音が出たり、痛みが起こります。
一般的には指を縦に重ねて3本分が口に入るのですが、重症化すると1本分も開けられず、激しい痛みを伴い、水を飲むのも苦労するケースもあります。
顎関節症の原因は、食いしばりや歯ぎしりと言われています。
「最も一般的な原因はパラファンクションで、特に日中、睡眠中のくいしばりが筋痛に大きく影響しています。次に多い原因は睡眠中の歯ぎしりで、これは関節痛に影響します。」(引用元:慶應義塾大学病院医療・健康情報サイトhttp://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000319.html)
顎関節症は、本人が気づかないうちに、過労などによる肉体の疲労やストレスなどによる精神的緊張を伴っています。心身の緊張感が、食いしばりや歯ぎしりをもたらすのです。その結果、咀嚼筋が強く緊張し、症状が起こるのです。
なので、まずそれらの原因を取り除くことが大切です。
痛みを引き起こす背景にある原因を取り除かないで、患部である咀嚼筋にいくら鍼を打っても改善されにくいのです。
咀嚼筋の緊張を取るためには、まず身体全体の疲れや精神の緊張を改善させるのです。
~腰痛を例にみてみましょう~
同じ腰の痛みという症状であったとしても、人によって一人一人、回復力が異なります。
腰の痛みには、ふくらはぎの緊張がつきものです。
さらに、臀筋群や首・肩の筋肉も凝り固まっているケースも多いです。
腰を治すのに必要と感じたら、それらの治療も同時に行います。
また腰という部分が同じ筋肉に見えても、その筋肉の体質は個々に異なります。
臨床のなかで施術者がどのように見ているか、少しお話してみます。
自然界の畑や大地を例に取ります。
~筋肉の状態は多様~
筋肉の状態も多様であり、石のように硬くなってしまった筋肉もあれば、粘土のように粘った筋肉もあります。
石のような筋肉というのは、鍼を打った感覚を表したもので、骨と間違うほど硬い筋肉です。
粘土のような筋肉は、田んぼの中に入った時に、足が抜けなくなる感覚と同じです。足を取られるのです。
その感覚を鍼で感じています。
石のように硬くなる筋肉は、血瘀(血流が悪い状態)で、血液が不足して筋肉に栄養が行き届かない状態が多いのです。
粘土のように粘りこくなる筋肉は、主に水分代謝などの新陳代謝の悪化が大きく関係しています。
このような場合、血流の改善や新陳代謝を良くする鍼を打つわけです。
局所である患部の治療を改善させるために、その回復力を妨げるものを取り除いています。
~良い鍼を打つため、日々修練~
いろいろ述べましたが、何よりも鍼治療で大切なことは、言うまでもなく治療は鍼で行うので、身体の中に入った様々な鍼の感覚を、施術者の指頭で感じ、どれだけ筋肉の状態を把握できるかです。さらに、その筋肉に対して改善できる手技を、どれほど身につけているかです。
症状の背景にある原因を把握する
基本的に最初に行うことは、臓腑弁証と気・血・津液弁証ですが、ここではやや専門的になりますが、気・血・津液弁証について少しお話しておきます。
気・血・津液弁証では、気・血・津液の過不足を診断します。中医学では、気と血の関係は、「気は血の帥」「血は気の母」と言われています。これは、気は血を推動し(推し流し)、血は気を生み出すという意味です。(cf. 岡部哲郎ほか「入門:内科医のための漢方医学 11.鍼灸理論と病気の機構」『内科』80巻6号(1997-12)p.1172 http://okabesystemsmed.com/page6)
~鍼は、ストレスや疲れが取れないなどの症状に最適~
身体にとって重要な、そうした気や血、津液の流れを阻害する病証に対しては、気・血・津液の流れを整える経穴を選択するのはそのためです。
気・血・津液の流れを整えることによって、イライラや不安などの精神症状、また血瘀や痰湿の状態からくる身体症状に対応できるのです。
~特定の疾患に対して効果が生まれる~
様々な原因に対して、その原因を改善させる最も高い効能をもつ経穴(ツボ)を選択します。経穴は一つではなく、二つ三つを組み合わせることによって、効能が増すだけでなく、漢方薬の葛根湯のように、特定の疾患に対して効果が生まれるのです。
~経穴を組み合わせることで有効な治療を施す~
経穴をいくつか組み合わせることによって、何百種類もの漢方薬に相当する効能を発揮します。
中国では当たり前のように、このような治療が行われています。
私も経穴の組み合わせと、様々な漢方薬の効能とを対応させる一覧表を作り、治療に応用しています。
例えば、ストレスに対して最も有効な経穴の組み合わせの一つは、合谷・太衝・内関です。水分代謝ならば、三陰交・足三里・豊隆(陰陵泉)です。
2~3つの経穴を組み合わせることで、特定の効能が生まれるのです。さらに組み合わせは一つではなく様々ですが、施術者が最も得意とする(臨床で成功体験をつみかさねた)経穴を選択しているのです。
~鍼で疾病を改善できるわけ~
私たちの身体には五臓六腑の経絡が流れていて、その経絡にあるツボは、その経絡にまつわる臓腑の生理機能を調整することができるのです。さらに東洋医学では、気・血・水を三宝として大切にしています。
気を巡らす得意なツボは、いくつもありますが、一つ選ぶとすれば、合谷です。血を巡らす得意なツボもいくつもありますが、一つ選ぶとすれば、太衝です。
~ストレスや精神症状も、鍼で改善~
ストレスや精神疲労を改善する時、私は合谷・太衝というツボを選穴します。
さらに、ストレスに対して有効な自律神経を整える内関というツボを用います。合谷・太衝・内関で、ストレスからくる精神症状に対応しています。
心だけ、身体だけが原因であるという疾患はなく、どちらか一方の治療だけ行うのではなく、双方から治療するのが正しい方法です。
私たち人間は、五臓の生理機能が正常で、気・血・水の流れが良く、過不足がなければ健康でいられます。
ですから、五臓の生理機能と、気・血・水の流れや過不足を改善することが、健康にとって何よりも大切なのです。
疾病が改善する仕組み
本来私たちの身体は、疾病の原因を取り除き、個々のもつ自然快復力を最大限に高めれば、どんな疾患も必ず改善できるようになっているのです。改善できないのは、局所に対する治療だけに終始し、木を見て森を見ずになっているからです。さらに疾患の原因となる悪い生活習慣を改善することが大切です。
~かみ砕いて、分かりやすく丁寧に説明する意味~
かみ砕いて分かりやすく丁寧な説明を心がけています。病態を詳しく説明し、その原因や対処法を知っていただくためです。ほとんどの疾患は、その原因を取り除けば改善してゆくように出来ています。なので、安心して頂く事、さらに希望をもって頂く事が、丁寧に説明することの目的です。
そして疾病を治すことに一緒に参加して頂くことです。何故なら、疾病の原因の多くは、日常の生活習慣にあるからです。
それらは、精神および肉体の過労・ストレス・食生活の偏りや悪い姿勢、浅い呼吸や過剰な感情の変化、睡眠不足、生活のリズムのアンバランスなどです。
老化・虚弱体質・瘀血・水分過多・冷え症などの体質改善も、患者様とともに積極的に取り組み、将来の健康を目指して治療に携わってゆきます。
院長自ら治療します
当院は、診療から治療まで、全て院長が自ら行います。
鍼の費用
・初診料は、初診のみ必要となります。
初診時は初診料と治療費を合わせて9,200円です。2回目より8,000円となります。
骨盤矯正、頚椎矯正、顎関節矯正などは必要な場合は、治療費の中で行います。