患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[神経痛]首から背中、上腕から肘、手首にかけての電気が走ったような激しい痛み

初診

2018年1月22日  
52歳 男性

主訴

首から背中にかけて、さらに上腕、肘、手首に電気が走ったような激しい痛みが起こり、手指がしびれ、握力が3分の1以下に低下し、手に力が入らなくなった。

診断名

胸郭出口症候群(頸椎症の疑いあり)と判断する

随伴症状

  • 首・肩・背中の凝り

現病歴

horse一日中、座って朝から晩までパソコンに向かっている仕事をしております。ですので日頃から常に、首、肩、背中が凝っております。趣味で馬術競技(レイニング)を毎週土日、10年程続けております。

朝起きた時、背中の肩甲間部に鈍い痛みが起こり、
左腕がとても重くなりました。

昨年の12月の半ば、朝起きた時、背中の肩甲間部に鈍い痛みが起こり、左腕がとても重くなりました。年が明けて正月より、馬術の練習を打ち込んで数日間行いました。
その後、いろいろな症状が起こり出しました。

  • 首の位置(向きを変える)によって背中及び上腕の後側から前腕外側、手首にかけて電気が走ったような激しい痛みが起こります。
    痛みが起こると、手の指がじんじんとしびれてきて(特に中指と薬指)、手の感覚がなくなり、だんだん力が入らなくなります。 
  • 車を運転していると、15分位で背中が強ばって、肩、腕にかけて感覚がなくなってきます。
  • 頭を洗った後、左手にドライヤーを持って、頭の後ろに回した状態で、頭を下げると、肩と肘と手首に鋭い痛みが走ります。
  • 仰向きで寝ると首が痛いので、左上、横向きで寝るようにしていますが、夜中に仰向きになるとズキッと痛みが走って、目が覚めます。

首が痺れて動かなくなることが、年に1,2回ありました。

neck馬術は、1時間程度で、あまり体力は使いませんが、馬がぬかるみに足をとられたり、こけかけたり、驚いて跳ねたりすると、肩と背中に力が凄く入ります。その後数分間、首が痺れて動かなくなることが、年に1,2回ありました。
1月13日に風邪をひき、1月22日に10日ほどかけて、やっと治りました。だんだん手の痺れが酷くなり、握力が半分以下に低下し、力が全く入らなくなりました。最初は脳梗塞かと思ったのですが、痛みが酷いので、これはもうすぐに当院に行った方が良いと思い、1月22日に急いで来院いたしました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
byoutai02

頸椎の徒手検査

前屈痛→背中の肩甲間部がつっぱって痛い。
後屈痛→肩引きのあたりにビリビリという痛みが走る。
左回旋痛→左上腕後側が痛む。
右回旋痛→痛みは起こらない。
右側屈痛→左の肩がつっぱる程度の軽い痛み。
左側屈痛→上腕の後ろから前腕の外側、中部までがじんじんする。
上腕と前腕が痺れてくると、次第に指先がじんと痺れ、感覚がなくなってくる。

  • 起立しようとすると、左足首内側が痛む
  • 左足の踵をつけてつま先を外側に開こうとすると、左足首内側が痛む
  • 左足首内顆及び三角靭帯の周囲に腫脹を認める(触診による圧痛なし)
  • 屈筋肢体の肥厚を認める(触診による圧痛なし)
  • 長母指屈筋の上3分の1の部分に強い筋緊張と圧痛を認める
    (足弓を保持する、足の指の底屈及び足の回外を行う)
  • ライトテスト(陽性)
    左の腕を外転し、90度以上挙げると脈の拍動が(肘をまげなくても)消失する。
  • 3分間挙上テスト(陽性)
    左腕を挙上すると、すぐに脈の拍動が消失する。
  • スパーリングテスト(陽性)
    左への側屈は、わずか20度が限度で、上腕、前腕への痛みが増強する。
  • エデンテスト(陰性)
  • 触診で、著しい筋緊張を下記に認めます。

  • 左頸部筋群及び左肩の僧帽筋
  • 頸部より、肩甲骨外側の上部にかけて、さらに菱形筋
  • 上肢帯筋及び上腕・前腕の筋群

中医学による病態の把握
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    舌診

  • 舌体
  • 老舌

  • 舌色
  • 紅舌

  • 舌苔
  • 厚膩苔で色は黄色。痰濁内停
    これは、水分の代謝が悪くなり、体内に水分が長く留まり、古くなって体内水分が粘り、汚れて熱せられていることを示す

    tongue out

    脈診

  • 毎分72 滑脈
  • ~臓腑弁証~

  • 特になし
  • ~気血津液弁証~

  • 痰湿証
    苔は舌全体にやや厚く、黄色く粘っこくなっている。
    このことより、身体内の水分代謝が悪化し、慢性化して長期にわたっていることが分かる。体内水分が長期間留まると、水分は汚れて汚くなる。寒がりとか、暑がりとかあるように、乾燥や湿気の多い体質もあるのである。この水分が、筋肉の中に留まると、筋肉は粘土のようになり、弾力を失う。
    血流も悪くなり、自ら行う正常な筋肉への自然快復が障害される。
  • 瘀血証
    身体内の血液の流れが悪化し、身体のある部分で血瘀の状態が慢性化していることが分かる。

方解

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パソコンに座り一日中、頭脳労働を行なっている。
首・肩・背中が常に凝り固まっている。1週間に2回の馬術の練習は、気晴らしにもなり、健康のためにも良いが、疲労が溜まった身体で競技を行うと筋肉に負担がかかり、逆に筋肉の緊張や疲労を引き起こす。
特に片手で手綱をもつ左腕から首・肩・背中にかけての筋肉の緊張は深層まで凝り固まっている。これは疲労が少しずつ積み重なっていたもので、首および胸郭・首から肩甲骨にかけての筋肉・肩甲間部の筋肉(菱形筋・脊柱起立筋)の深層まで凝り固まらせた。

特に頸部および胸郭、首から左肩甲骨外上角にかけての筋群の強力な筋緊張は頸部で神経圧迫を引き起こし、首から背中そして上腕から肘そして手首の痛みおよび手指のしびれ、さらに握力の低下をもたらしている。
痛みは、菱形筋および脊柱起立筋の深部まで凝り固まっているために引き起こされている。握力の低下は、筋緊張が深部にわたり慢性化し、それらによる神経の圧迫が重度であることを示している。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~
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~握力の低下を考慮した治療~
握力の低下が正常時の3分の1以下に達しており、神経圧迫が重度であることを示している。現代医学的所見で原因となる筋肉を示したが、これらの筋群を丁寧に鍼で緩めていくことが、この病態の改善の決め手となる。

~神経圧迫は長引かしてはならない~
握力の低下を招いている神経圧迫は、長引かしてはならないが、深層の筋群まで緊張を緩めないと、この神経圧迫は取り除けない。
一刻も早く、深層の筋群へ鍼を進鍼させる。そのためには、治療間隔を密にしてあまり日にちをおいてはならない。
握力の改善が見られるまでは、治療間隔を中2日とし、3日ごとに治療を施すことが好ましい。
例え1回の治療時間がどれだけ長くかかっても、病態把握で指摘したすべての筋肉を緻密にかつ深部までほぐしてゆく。

鍼で筋肉をほぐすということは、手でトンガを持って畑を耕すこととよく似ている。荒れ果てた硬い畑を耕すことは、とても大変なことである。必死でトンガを入れて畑を掘り起こしても、畑全体を深く掘り起こすまでは時間を要することは誰にでも想像できることである。
少し掘っては、水をやり、肥料をやって緻密な作業を積み重ねて深い所まで柔らかくなった畑が始めて作られる。

鍼の作用
鍼を刺入すると、その人の筋肉は鍼の強い弛緩作用で緊張が緩んでゆく。
鍼を抜いた後も、リンパ球が一斉に流れてきて、修復するまでの間、2、3日留まり、自らの血液で筋肉を修復させてゆく。
有難い自然回復力は、人間には常に働いているのである。
頸椎症の疑いがあり、否定することができない。
頸椎がどのような状態であるか、いつでも診てもらえるように提携先の整形外科にも紹介状を既に書いた。
いずれにしても、全力で治療を進めてゆく。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第1回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛さに変化はありません。まだ痛いです。

第2回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
握力が3分の一以下で全然手に力が入らなかったのですが、手が強く握れるようになりました。
~私の触診~
私の手を患者様の左手で、できるだけ強く握ってもらいました。
握力は当初、右手の三分の一以下だったのですが、半分ぐらいまで回復していることを確認しました。これは非常によい経過で、想定を越えた回復です。通常、握力の回復には10回以上の治療をおこなった段階で始めて見られるものです。
当クライアントの回復力は、めざましいことを示しており、特異であるとも言える。
心配した頸椎症からくる神経圧迫はほとんどなく、例えあったとしても、軽度であり握力の低下を引き起こしている神経圧迫は筋肉であることがより想定できる。想定より早い回復が可能かも知れない。

第3回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
背中の痛みはほとんどなくなり、痛みを感じるのは肩から手首だけになってきた。
手は、大分強く握れるようになりました。
~私の触診~
背中の硬結が前回の治療でほとんど取れ、今日は硬結を探す程しか確認できなかった。背中の痛みは、首からの神経痛ではなく、日常の凝りの上に馬術競技の負担が重なったものであると判断できる。
握力は、私の手を握ってもらうと痛い程まで改善した。正常時の2/3まで改善したと言える。頸椎の損傷を心配したが、順調な経緯である。

第7回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
昨日の強い痛みや頭痛はなくなりました。
左腕のしびれも少しずつ良くなってきているように思います。

第8回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
指先のしびれはかなり減少しました。まだ少しからだの向きによっては引っ張られる感じがします。

第9回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
70%~80%、痛みが治りました。
体調の変化はありますか?
首や肩の凝りが、よ程改善されました。

第10回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
指先のしびれ、動かしにくさはまだ残っていますが、痛みはかなり薄れてきています。

第15回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みはほとんどなくなりました。握力もほとんど元通りになりました。

第16回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
握力は正常に戻りました。日常生活がしやすくなりました。ただ、指先のしびれだけがまだ少し残っています。これを取ってください。
~院長の一言~
はい、分かりました。もう少しで取れますよ。

第22回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
しびれ、痛み共になくなりました
~院長のアドバイス~
よかったですね。握力が3分の1以下に落ちて、痛み、痺れともに強かったので、心配しました。強い回復力ですね。

患者様からの質問

肩こりだけがまだ少し残っています。
鍼を通しても、鍼の響きをほとんど感じません。これは肩こりが慢性化しすぎて、痛みを感じないのです。しかしこの麻痺感覚は、良くありません。肩こりを深層まで取って、再発しない状態を作っていきましょう。
神経痛・痺れに対しての治療は、今日で終了します。

第23回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
施術当日はかなりだるさがありましたが、その後肩こりが楽になりました。筋肉痛と肩こりの違いが感じられるようになったと思います。

私見

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来院当初、手の握力が著しく低下していた。私の手を力一杯握ってもらったが、私が力を入れなくても、全く痛くない程で、正常時の1/3以下に低下していたと思われる。
通常握力が60kg程あるそうだが、20kgもないように感じた。当然ここで、頸椎の損傷を考えたが、とにかく治療をすすめることにした。

MRIなどで頸椎の椎間板が脊髄を圧迫していて、うわっと思う程の状態であっても、握力の低下や下垂手などの神経麻痺が改善し、日常生活に負担が無い状態まで改善することを何度も経験している。
当院では少しでも疑わしきは、調べろで、提携先の整形外科でレントゲンやMRIを撮ってもらうようにしているが、今回は検査に行く前に症状が改善されるかもしない。症状が改善された後で、念のため、レントゲンを撮るのであれば、患者様の精神的な負担もより軽減されたものとなるであろう。

症状が重い場合は、手術が必要となり提携の整形外科に紹介をするのだが、今回は早めに来院いただいたこともあり、改善が見られてよかった。

公開日:2018年2月13日 更新日:2018年11月5日 ©
はらだ鍼灸整骨院 院長 原田浩一

はらだ鍼灸整骨院
院長 原田浩一

「[神経痛]首から背中、上腕から肘、手首にかけての電気が走ったような激しい痛み」は
原田鍼灸整骨 院長 原田浩一が書きました

鍼灸師・柔整師・カイロブラクター・サイコセラピスト

(財)東洋医学手技療法師協会認定プロ養成講師

  • 平涼医学高等学校(中国)客員教授
  • 大阪中医学研究会主宰
  • 中国刺絡学会最高顧問
  • 日本心理センター認定サイコセラピスト(理事長 立木 寅雄氏)
  • 近畿療術師会連絡協議会認定カイロブラクター
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