患者様の病態分析

[五十肩]腕の使いすぎによる左上腕の痛みを訴えて来院したが、実際は五十肩であった

初診

2018年1月30日
67歳女性

主訴

腕の使いすぎによる左上腕の痛み

診断名

  • 五十肩

随伴症状

  • 首・肩の凝り
  • 足がむくむ
  • 15年来の花粉症(2,3,4,5,6月)

現病歴

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昨年の8月頃、ジムに通っていて腕を強くするマシーンをやりすぎて、その後からずっと左腕が痛みます。
寝ていて上布団を動かす動作から、物を拾う動作など、日常のあらゆる動作で痛みが出ます。

整形外科を受診し、X線では異常なしで、どこも悪くないと言われました。肩にヒアルロン酸をうってもらい、痛み止めももらいました。
どこも悪くないと言われたので、いつか治ると思って我慢していました。しかし痛みは一向に治まらず、同じ痛みがずっと続きました。
それでも、昨年末頃より少し楽になったように感じたので、今年に入って運動を始めました。
歩きながら腕を振るなどして、30分以上歩きました。運動を始めたら、また強い痛みが出て、だんだん酷くなりました。

利き手なので何をしても痛く、不便です。
食事は肉、魚、油ものがやや多く、量もしっかり食べています。
水分は1日を通して紅茶、コーヒー、お茶を良く飲みます。
これ以上悪くなったら日常生活にも大きく支障が出るし、治らなくなるのではないかと思い、エキテンで見て、また当院で良くなった友人にも勧められたので、1月30日来院しました。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
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  • 左上腕垂直外転【手を前に出して上に挙げる】(130度) 左肩関節の運動障害を認める
  • 左上腕水平外転【手を床に水平に出して上に挙げる】(90度) 左肩関節の関節拘縮をみとめる
    触診により、押圧すると下記の筋肉に圧痛あり
  • 三角筋、前・中・後側繊維、上腕二頭筋上三分の一、棘上筋、棘下筋及び上腕骨後側の大結節に強い圧痛

中医学による病態の把握
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    ~舌診~

  • 舌体 胖大舌
  • 舌色、紅舌やや暗
  • 舌苔、苔なし
  • 舌下静脈の怒張、軽度(全身のいずれかの部位で血液の渋滞がある。
  • tongue out

    胖大舌、苔なしは、脾気が低下し、水分代謝及び引き締める力が低下していることを示している。

    ~脈診~

  • 毎分60、 脈 滑
  • ~臓腑弁証~

  • 脾気のやや低下がみられる
  • ~気血津液弁証~

  • 湿証
    脾気虚で、体内水分の代謝が低下し、体内水分が停留し、湿気が多い身体になっている。
  • 瘀血証
    身体内の一部で血液の流れが悪化している。

方解

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ジムで筋肉を傷めたが、自然に治ると思っていたが、なかなか治らず長期化した。その期間、腕を動かさなくなったことも相まって、単なる筋肉障害をきっかけに五十肩を引き起こした。今年に入って運動をしようとしたときに激痛が走ったのは、負傷した筋肉痛のためではなく、五十肩のためである。

五十肩のなりたちは、整形外科的には不明であり、原因は明らかにされていない。五十代に多く、男女の区別はなく、腕を動かすときに激しい痛みが、ある日突然のように起こることから始まる。

2週間ほど激しい痛みが続いた後、痛みは軽減するが、肩関節の運動障害を引き起こす。髪をといたり、背中の後ろに手を回す、服を着る動作などがしづらくなる。急性期、慢性期、回復期が各4ヶ月続き、1年位で自然に治っていくのが通常である。

慢性期になっても急性期のような激しい痛みが続く場合もある。中には、急性期の1~4ヶ月以内で関節拘縮を起こす例も近年増えている。

~東洋医学的の視点からみた五十肩~
東洋医学の視点からみると、なぜ五十肩になるのかは、きちんと原因を説明できる。何故ならば、因果応報で原因のない結果はないのである。身体の一部分は、常に身体の全体の健康状態の影響を受けている。五十代前後になれば、身体の変調を来す人が多い。運動能力及び食欲、排出力の低下などである。持久力がなくなったり、筋力の低下なども引き起こす。怪我や病気をしても回復力が若いときにようにいかないと感じる事が多くなる。これらは、身体の新陳代謝の低下及び姿勢(身体の歪み)などが主な原因となって、筋肉が硬化し、神経圧迫や血流低下を引き起こすためである。手を動かすという動作は、肩関節の役割であり、働きと思っているかもしれないが、関節は筋肉の状態や全身の血流状態の影響を常に受けているのである。これらを全身の新陳代謝の低下と考えれば、それらの影響が身体の一部に現われても不思議ではない。

病気の原因は一人一人異なるが、その人の一番弱い部分に症状として現れるものである。全身の新陳代謝の低下が、腕を動かす筋肉の痛みや運動障害に繋がることもありえることで、何ら難しい予想ではない。(足のむくみや冷え症などの症状として現れるかもしれないが、現れ方の違いだけである。)

それが証拠に五十肩はある日突然発症し、平均、約1年続き、酷い場合は8ヶ月くらいまで激しい痛みが持続し、運動障害も酷くなり、期間が経つほど、ある時期までだんだんと症状が悪化するのである。怪我や外傷であれば、期間がたてば大抵どんな疾患も手当をすれば自然回復力が鼓舞され、期間が長くなるにつれて、だんだん良くなっていくものである。しかし、五十肩はエネルギーを持っている台風のようなものである。身体全体の健康状態の影響を受け続ける。痛みや運動障害の程度は一人一人異なり、軽症のものから重症のものまであり、治る期間も2ヶ月程度から最長3年と様々である。

東洋医学では、部分の障害とは考えずに、身体全体の状態が肩関節という場所に症状をもたらしたものと考えている。なので、五臓六腑や気・血・津液(生理的水分)の調整をし、身体全体の生理バランスを整え、代謝障害や血流を改善し、自然回復力を高めていく事をまず第一に、局所の治療と並行して行うのである。かといって、局所をないがしろにするという意味では全く異なる。局所の痛みが酷い場合は、導通鍼を行い、脳内よりβインドルフィン(モルヒネ様物質)を誘導し、痛みを急速に和らげる治療を施す。痛みを緩和させるだけではなく、上腕の運動療法を行い、運動障害も改善させる手立てを施す。

さて、新陳代謝の低下は老化現象でも現れるが、老化というのは一部の原因であり、代謝障害を引き起こす原因の多くは日常生活の中にある。食事や運動、環境、ストレスなどの精神状態の影響を大きく受けている。それらが現在の貴方の身体に合っていませんよという警告であり、教えである。ですから食事や運動、環境、精神状態を含めて考え直す良い機会なのである。
この症例では、
肉や魚、油ものが多いことと、水分の摂取が多い事が脾気を弱めている。脾は筋肉を養い、水分代謝等を行う主な臓である。そのため筋肉の弾力や瞬発力、持久力がだんだんと弱くなってきたと考えられる。全身の水分の代謝障害は、体内に水分が長くとどまるという事である。同じ水分が長くとどまると、ため池のようになり、体内水分は綺麗ではなくなる。
汚れた水分が筋肉や関節の中に、長くとどまると、筋肉は沼のようになり、血流や老廃物の代謝が障害される。関節を動かしているのは筋肉である。筋肉に障害が起これば、関節の動きにも障害が起こるのは、容易に想像できることである。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~
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初診時の問診では、上腕の筋肉が痛いが、腕は挙がると言う事で、ご自身で挙げてくれた角度は、垂直外転130度であった。次診時、水平外転を試みたところ、自動では90度以上挙がらず、他動でも変化はなく、それ以上挙がらなかった。左肩関節の関節拘縮寸前の所であった。
ここで五十肩であることがはっきりと確定した。


このように改善の難しいこの疾患に対しては、中医学弁証により証をたて、証に基づいて全身的な総合的な病態に対して治療を施す必要がある。
そうして悪化した体質改善をはかり、ご本人の生まれながらにして持つ自然回復力を最大限に引き出すことが何より大切なことである。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第2回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
大分痛みがとれて、シャンプーをするのが楽になりました。
体調の変化はありますか?
肩も少し楽になりました。

第3回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
痛みが減ってきて、色々しやくなってきました。また、少し後ろの方へ手がいくようになりました。

第4回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
日々少しずつ痛みが軽くなっています。
体調の変化はありますか?
肩の凝りがとれてきたのか、頭が軽いです。

第5回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
少しずつ楽になっています。

第7回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
かなりよくなりました。日常生活がかなり楽です

私見

bensyou
初診時は筋肉障害が長かったため、強い緊張を引き起こしただけだと思ったが、次診の触診と望診で、水平外転90度で肩関節の拘縮を起こしている事を発見した。

公開日:2018年3月22日 更新日:2018年3月20日 ©