患者様の病態分析

臨床報告とは

臨床報告とは、一つ一つの病態をどのように分析し、診断を下し、そのもとに、どのような治療を施し、その経過を示し、どのような結果になったかという報告です。

様々な分野の臨床報告を残すことによって、後世の臨床家の手引き・参考としてほしいと願っています。

治療家であれば、どのように治療して良いかという悩みは、誰しも同じようなところに行きつきます。難しい疾患になる程、どうしたらよいのか分からないことも多く、悩みも多くなります。鍼灸が医学として発展するためには、臨床家や、これから臨床を目指す鍼灸師が、このような壁に当たった時、本当に参考になる手引きがほしいと思うのは誰しもです。

私は中医学弁証を学び、中国の大学院で学んでいる勉強を学ぶ機会を得ました。中国の臨床例の多さは、日本と比べるととてつもなく多くあり、その臨床例が私の成長に大きく繋がりました。残念ながら日本には、参考となる臨床報告がほとんどなされていないのが現状です。

患者様の協力を得て臨床報告をあげていきますので、後世の臨床家たちの参考となれば幸いです。

[パソコン肘]手を普通に使っていると、突然激痛が肘の外側にはしります。

初診

2018年1月18日  
30歳 女性

主訴

右肘の痛み

診断名

パソコンの使用による肘の痛み

随伴症状

  • 便秘

現病歴

computer_woman昨年春先から、右肘が痛みます。一日の仕事の中でパソコンを6時間ぐらい使います。マウスを動かすことが多く、右手の人差し指と中指を交互に頻度高く動かし続けております。
仕事の疲れやイライラを取り、ストレス解消のために、家に帰ってからもネットやゲームを行います。3時間ぐらいはパソコンを離せません。
昨年の4月、病院で注射を打ってもらって、いったん痛みは治まっていました。

突然激痛が肘の外側にはしります。

その後、9月ごろに再発し、車の運転にも仕事にも、また日常生活の様々なことにも支障が出始めました。手を普通に使っていると、突然激痛が肘の外側にはしります。また昨年の末より便秘気味で3,4日に一度しかスムーズに排泄できなくなりました。
現在は、肘をまっすぐ伸ばすだけで痛く、このまま症状が進んでゆくと、仕事もできなくなると思い、インターネットの検索で当院を知りました。
今年1月18日に来院いたしました。注射や薬で一過性に痛みを取るのではなく、根本的に治さなければいけないと思ったからです。

現象

現代医学的な方法による病態の把握と、
中医学基礎理論を用いる中医学弁証による全身状態の把握

現代医学的な把握
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~触診による検査~

  • 上腕側外側上顆を軽く押圧するだけで、飛び上がる程痛む。
  • 総指伸筋と小指伸筋(手首を背屈し、中指と人差し指を動かす筋肉で、指をそらす働きを行う)に著明な圧痛あり。
    両筋肉は、上腕骨外側上顆に付着している。
  • 尺側手根伸筋(手首を小指側に曲げる筋肉)
  • 上腕三頭筋の緊張・萎縮を認める(肘関節では肘を伸ばす働きをする)
  • 肘筋(肘を伸ばすときに三頭筋の働きを助け、関節包を緊張させる)の萎縮・緊張を認める。

中医学による病態の把握
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    舌診

  • 舌体
  • 舌の動きは正常

  • 舌色
  • 淡紅舌、やや紅

  • 舌苔
  • 薄白苔、苔やや少なく水っぽい
    苔が少なく水っぽいのは、脾気の生理機能の低下を示す)

  • 舌下静脈の怒張、少しあり
    全身の一部で血流が低下していることが考えられる
  • tongue out

    脈診

  • 毎分72 滑脈
  • ~臓腑弁証~

  • 肝鬱脾虚
  • ~気血津液弁証~

  • 気滞証
    気の流れの停滞により、推動力が低下し、血液と体内水分の流れが悪くなり、それらの停滞を引き起こしている。
  • 湿証
    苔が少なく水っぽいのは、脾気虚による水分の代謝障害である。
  • 瘀血証
    身体内の血液の流れが身体の一部で悪化しているところがあり、慢性化していると判断する。

方解

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~現代医学的病態把握はパソコンで肘を傷めたことを証明している~
パソコンを使用するとき、手を背屈させて、やや手を外側に向けてマウスを使い、中指と人差し指を動かす動作をくり返すと思います。

現代医学的病態把握の中で触診により筋肉の緊張や圧痛を診てみると、まさにパソコンを使用するときの動作で多用する筋肉が緊張・萎縮し、それらの筋群の付着の上腕側外側上顆に激しい炎症を引き起こしております。まさにパソコンの使用により引き起こった症状であります。
ですから、パソコン肘と名づけました。

指や手首を動かすだけの軽い力なのにと思っても、繰りかえし何時間も使っていると、筋肉は疲労し緊張・萎縮し、筋肉に痛みや炎症を引き起こします。
それらの筋肉の付着部であり支点となる上腕側外側上顆に激しい炎症を引き起こしたと考えられます。

現代医学的病態把握の中で、筋肉の作用から遡り分析してみると、明らかにパソコンによる障害であることが裏付けられました。

~東洋医学的把握から証明されるもの~
東洋医学の経絡の観点から見ると、緊張・萎縮した前腕筋群の中を手の陽明大腸経の経絡がまさにその筋中を通っているので、便秘を引き起こす誘因になったと考えます。経絡の中の経気(気血)の流れが悪くなったためです。またストレスにより、肝気が鬱滞し、脾気が低下したために消化・吸収・排出の力が低下したためと考えます。

治療方針

~全身的な視点から診た鍼灸治療~
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  • 現代医学的な病態把握で認められた筋肉の筋緊張を鍼で取り除き、手首の背屈や中指・人差し指の健全な動きを取り戻す。
  • 同時に、上腕側外側上顆の周りに鍼を集中して刺針し、炎症を改善させる。一つ一つの筋群に丁寧に刺針し、浅層から深層まで柔らかく穏やかに進鍼し、筋肉の正常な弾力をくり返す。
    丁寧にということは、何度もくり返し、筋肉の中に鍼を通して明らかに緊張が改善されるまで、柔らかい弾力を取り戻すまで時間をかけて施術を行うということである。鍼を刺せば、筋肉が緩むというものではない。

~鍼の進鍼技術について~
筋肉は、鍼の繊細なタッチを快く受けとめて始めて反応するものである。緊張した筋肉を緩めるためには、柔らかい指先の弾力をもち針先に全精神を集中させ、髪の毛よりも細い鍼の先を感じ筋肉と心地よく戯れるように手技を施すことが必要である。肘の炎症を取り除くためには、卓越した鍼の技術が必要である。経験を積み指頭感覚を鋭敏にしないと非常に難しい部位なのである。

  • 東洋医学的病態把握で認められた証に対して施術を行う。肝気を巡らし、脾気を高める施術を行う。
    合谷・太衝・内関・疏肝理気・中脘・天枢・足三里
    (胃腸の働きを高め、胃と腸を連動させ、脾気を高める。肝気を巡らし脾気を強めることでストレスを改善し、胃腸の働きを高める。)
  • 全身的な病態を回復する鍼と、局所に対する鍼を同時に並行して行い、最短の期間で激痛を取り、正常な指の動きを取り戻せるように努める。

治療経過

患者様のお声をそのまま記します

第1回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
一回の治療で、急に痛むことはなくなりました。

第2回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?

第3回目の治療

痛みの強さに変化はありますか?
はい、あります。
激痛が、ましになりました。肘を伸ばすのは、まだ痛いです。

私見

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現代医学的病態把握のなかで、明らかにマウスを使う動きとキーボードを打つ動きで引き起こされた症状であることが裏付けされた。

また東洋医学的病態把握の中で、ストレスにより脾気が低下したこと、また負傷部の前腕筋群の筋中を、大腸経の経絡が通過しているため、その前腕筋群の経気(気血)の流れが妨げられた。その両方が要因となって起こった症状である。

また東洋医学的病態把握の中で、ストレスにより脾気が低下したこと、また負傷部の前腕筋群の筋中を、大腸経の経絡が通過しているため、その前腕筋群の経気(気血)の流れが妨げられた。その両方が要因となって起こった症状である。

パソコンを多用する現在、このように肘を痛め、パソコン肘になる人々は、沢山いるであろうことが容易に推測される。

激しく痛むときは注射や薬で一時的に痛みを抑えることも一つの方法であり、完全に回復するまで前腕の安静をはかれれば良い。

しかし、痛みを抑えてこれまでと同じ作業を継続するのなら、症状はさらに悪化し重症化してしまう。症例の患者様のように一時的な対処療法で改善が見込めない場合は、根本的な改善のための治療を行うことが日常生活に支障が無いところまで改善させるための最も早道である。

公開日:2018年2月26日 更新日:2018年11月5日 ©
はらだ鍼灸整骨院 院長 原田浩一

はらだ鍼灸整骨院
院長 原田浩一

「[パソコン肘]手を普通に使っていると、突然激痛が肘の外側にはしります。」は
原田鍼灸整骨 院長 原田浩一が書きました

鍼灸師・柔整師・カイロブラクター・サイコセラピスト

(財)東洋医学手技療法師協会認定プロ養成講師

  • 平涼医学高等学校(中国)客員教授
  • 大阪中医学研究会主宰
  • 中国刺絡学会最高顧問
  • 日本心理センター認定サイコセラピスト(理事長 立木 寅雄氏)
  • 近畿療術師会連絡協議会認定カイロブラクター
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