update:2012年4月7日 最終更新日:2019年1月17日

中医学による機能性頭痛の分析(論文)

※効果や感じ方は人によって異なります

テーマ

・器質的に何の異常もないのに日常的に反復して起こる
・慢性頭痛は、鍼灸治療によって根本的に改善できる。
・罹病期間(3年、5年、20年など)に関係なく一定期間で改善できる。
・随伴症状(不眠、むかつき、など)もともに改善される。
・日常的に見られる頭痛の中には危険なものもありますが、機能性頭痛が頭痛全体の85%を占めている。
・機能性頭痛は、器質的に異常がないため軽視されがちで、根本的な改善がなされず、何年も続く慢性の頭痛となり、悩んでいる人が非常に多い。

このような機能性頭痛を中医学の視点から分析する

日常的に最も多く見られる痛みの中に頭痛があります。
頭痛の中には危険なものもありますが、器質的に何の異常もないのに反復して起こる頭痛、すなわち機能性頭痛がその85%を占めています。

機能性頭痛は根本的な改善がなされず、何年も続く慢性の頭痛となって、苦しんでいる人が非常に多いのです。(器質的に異常がないために、軽視されがち)
このような慢性頭痛は鍼灸治療によって、根本的に改善でき、罹患期間に関係なく、また頭痛に伴なう不愉快な症状、たとえば不眠、むかつきなども共に改善されます。

このような機能性頭痛を中医学の視点から分析します。

慢性頭痛の現代医学的分類と原因

・現代医学的な分類としては、緊張性頭痛、血管性頭痛、
 混合性頭痛があります。
 ①緊張性頭痛は筋肉のこりや心因性の血管収縮が原因です。
 ②血管性頭痛は頭部の血管の拡張やその周囲の炎症が原因です。
 ③混合性頭痛は、①が②合わさったもので、両方の要素を持っています。 

・病院で一般に処方される薬の例としては、
 緊張性頭痛に対しては血管を拡張させる薬が、血管性頭痛に対しては血管を収縮させる薬が投与されます。
 (両者は治療方法がまったく 異なるという点が重要なポイントである。)

(緊張性頭痛-①筋弛緩薬②循環改善薬③抗不安薬・抗うつ薬)
(血管性頭痛-①鎮痛薬②消炎鎮痛薬③血管拡張予防薬)

当院における機能性頭痛のデータ

では、まず当院のデータから見てみましょう。
・昨年、機能性頭痛を主訴として当院に来院した新患者数は 70人です。
 (随伴症状として頭痛を訴える患者や急患者は除く)

・患者の年齢は、20~30代の女性が全体の60%です。

症状の改善には即効性ありますが、根本的な改善期間は1~3か月です。
治療回数は、1~20回で、根本的な改善に要した回数は、平均10回です。

・代表的な症状
 ①毎日のように痛む、重い、締めつける→緊張性頭痛

 ②ある期間おいて短時間続く、激しくズキズキする痛み
  →血管性頭痛 (週に1ないし2回など)

 ③上記①、②を併せたもの→混合性頭痛

随伴症状:頭痛はさまざまな随伴症状を伴なっていることが多いです。
 たとえば不眠、イライラ、むかつき目の奥の痛みなどです。
(落ち込み、身体がだるい、疲れやすい)

発症部位は①後頭部 ②側頭部、に続いて、上記の混合が多く、
③前頭部 ④頭頂部 頭痛も多く見られます。

・最も多かった原因としては、ストレス、食生活の不節制でした。

※私見
 頭痛になりやすい人はどんな人か?
 ストレスを感じやすい人、すなわち心配性の人、イライラ しやすい人、完璧主義の人など。
 まじめで几帳面な人ほど頭痛にかかりやすい。
 心配していないと気がすまない、駆り立てられているのが 当たり前になっているため、本人はストレスを受けているとは認識していないことも多い。

本論ではこれらのデータより、ストレスによる頭痛が一番多かったので、そのメカニズムを中医学的に分析したいと思います。

ストレスによる機能性頭痛の代表的なケースを中医学的に分析

現代は情報過多の時代で、日常的に激しいストレスを感じる機会が増加しています。
それらのストレスが臓腑の生理機能に影響を及ぼし、頭痛などの身体症状が引き起こされます。

ストレスが身体にどのように影響するのでしょうか

・肝は気の流れを調節しています。
・肝の働きで気は身体のすみずみまで働いています。
・肝は情緒や感情の調節を行っています。
・ストレス、即ち精神的な緊張により、気滞が生じると肝鬱気滞となります。
・肝は気だけでなく水の代謝、血の配分、筋肉の働きも調節しています。
・肝の疏泄が失調すると、血流低下や水分停滞、および首や肩の緊張、こりを引き起こします。
・それらのために、血管が収縮し、脳への血流量が低下し、頭痛が引き起こされます。

・気滞による症状の特徴として、上熱下寒、元気なのに疲れやすいなどの症状を引き起こします。
・気の偏りにより、気に過不足が生じるため、元気なのに疲れやすいなどの症状が起こります。
・気の昇発過多により上熱となる。気有余ならばすなわち火により熱が上昇し上熱下寒などの症状を引き起こします。絶対的熱量に不足はないもの。

・火の性質としては、水分の消耗、激しい痛みなどがあります。
・顔が赤く火照る、口渇、皮膚乾燥などをもたらします。

筋収縮性頭痛の症状と発生メカニズム

症状:頭が重い、締め付けられる、毎日のように痛む

随伴症状:肩こり、イライラ、眼精疲労、疲れやすい

・症状の分析
 鎮痛剤を飲んだり、首、肩をほぐしたりしても、なぜ毎日のように起こるのか?
 根本的な原因はストレスであるため、肝鬱気滞が解消されない限り、痛みは改善しない

血管性頭痛の症状と発生メカニズム

肝火による頭痛の特徴:激しい痛み主に頭頂部に起こる
肝胆は表裏関係にあるため肝火は痰火を誘って上炎しやすく、側頭部の頭痛を同時に引き起こしやすい     

症状:激しい痛み、ズキズキする痛み、ある期間をおいて短時間続く、(ある一定期間いつも同じ時間に起こる)

(以下 随伴症状;顔面の紅潮、目の充血、口苦、イライラ、急躁易怒)

(随伴症状:頭重感、眩暈、耳鳴り、目赤、のぼせ、不眠、腰がだるい)

・身体内に生じた火は、自然現象と同じように炎上の性質により、人体上部の頭部へ燃え上がる。
・風邪は陽邪で、軽々と動き舞い上がり、人体の上部である頭部を侵襲する。
・以上のように、身体内に風・火が生じると、血管の拡張とその周囲に炎症が起こる血管性の頭痛に発展する。

補足
「頭部は諸陽の会」であり、『素問・方盛衰論』には「気上不下、頭痛巓疾気(気上りて下らざれば、頭痛巓疾となる)」とある。

陽気の気逆と不順によって頭痛が引き起こされることを説明している。
風邪と火気が諸陽の経にしたがって上昇し、留まってめぐらなくなり、正気と抗争すると頭痛が起こる。

いわゆる「火の性質は炎上であり、頭頂部には風だけが到達することができる」というものである。
気が下行できなくなり昇降が失調すると、嘔吐・悪心が起こる。

頭痛の症例

男性38歳
初診:2002年4月9日
主訴:頭痛
随伴症状:不眠、めまい、イライラ、目の奥の痛み、吐き気

<現病歴>
・1ヶ月程前から頭頂部から側頭部にかけてズキズキとした激しい 頭痛
・イライラ、不眠、目の奥の痛み、眩暈、吐き気
・2時間ごとに目が覚める
・激しいめまいで一度倒れ、その後、1日数回ふらつき感がある
・上記症状改善後、胃痛、前頭部頭痛、吐き気、会社に行こうと すると、上記症状が反射的に起こるため最来院
・深夜まで仕事が続き、日曜出勤もあり多忙。

証候分析

これらの痛みは実火によるもの。
また、まれに感じるふらつき感は虚火を伴なうことが多い。
一方、肝気が胃に横逆して、肝気犯胃による胃痛を引き起こす。
緊張したりストレスがかかると症状が増悪する。

脈診:細数
舌診:紅絳舌、舌尖紅、老小
舌苔:薄白膩苔やや黄、舌下静脈怒張
     ↓
【弁証】心肝火旺
【治療方法】清肝瀉心

紅絳舌:熱  舌尖紅=心火 
薄白膩苔やや黄:熱によって湿が煮詰まる
舌下静脈怒張:気滞
激しい頭痛、イライラ、目の奥の痛み、激しい痛みは肝火によるものです。
2時間ごとに目が覚めるのは心火によるものです。メラメラと燃える心火のために神志がかき乱されて、1ヶ月も不眠が続いています。
老小:肝火や心火のため津液消耗
   固くしまっているのは実証を示し、小さい舌は熱のためにわずかに陰血が消耗したと考えます。
   陰血の消耗としてはめまい、ふらつき感、脈細です。
   肝陰が消耗し、相対的に陽が過剰になると肝陽が上亢しやすくなります。

脈:細数 脈は細ですが、指を押し上げる力は十分あり、これも実証を示しています。

治療方法

少府・行間:
本経の榮穴、五行の火穴、身熱を主治 心経・肝経の実熱を主治する 
清心瀉火 清肝瀉火に優れる
行間は肝経の子穴でもある→実証 難経69難によると実すれば、その子を瀉せ
 (肝鬱、肝火、肝風、肝陽を主治)

太衝:
・平肝潜陽(清熱熄風)舒肝解鬱の要穴
・本経の原穴であり、五行の兪土穴である。
・合谷と合わせて四関穴、調理気血(理気に優れる)
・肝鬱による各神志病を治療することができる。
・肝と脾胃の関係は密接である。
・効能:疏肝理気、平肝熄風

風池:熄風潜陽
・風池は手足少陽・陽維の交会穴
・陽維脈は諸陽を連絡させ、足太陽・少陽とは密接な関係
・陽維脈の病は寒熱にあり、風池は風邪が中に入る処なので、瀉法を行うと疏風清熱の効果あり
・本穴は胆経に属し、肝と表裏関係にある。
・肝は風木の臓で、非常に化火、清風しやすく清竅に上擾するという特性あり
・内風は陽経である胆経の上部に位置する風池に瀉法することで熄風潜陽
・風池の最大の特徴は内風も外風も治せる風の要穴であるということ

太衝・合谷・太谿・風池:平肝潜陽、熄風、滋陰
太衝・風池:鎮肝熄風
太谿:腎経の原穴、元気を補う 腎気と腎陰を補う  腎は全身の陰陽の根源→肝陰を補う
合谷・太衝・内関:寛胸理気
中・足三里・内関:募合配穴で和胃降逆      内関:理気和胃 寧心安神

治療経過

・初回の治療後、夜初めて眠れた
・3回の治療でほぼ4時間眠れるようになり、7回 の治療でイライラや、頭痛、めまいなどほぼ全ての症状は改善、治療を終了
・その後、前頭部頭痛、胃の痛み、会社に行こう とすると吐き気が反射的に起こり、最来院
・さらに、20日間、8回の治療を行い症状は改善
・以後、症状の再発なし

結論

同じストレスを受けても、人によって影響の仕方はそれぞれ異なる。
カッと頭に来やすい人、心の中でためこむタイプの人、ささいなことが気になる心配性の人、さっと受け流すことができるタイプの人など。
ストレスという同じ病因を受けたとしても、疾病の発生や発展、変化の仕方はそれぞれ異なり、同じ頭痛という症状でも病理の発生や変化の仕方によって、証候というものは一人一人異なる。

精神的要因が肝に影響し、肝一臓の病がさらに他臓に影響する

たとえば、精神的な要因一つをとっても、このように身体に影響を及ぼし、さまざまな病態に発展するということです。

・内傷頭痛は虚実が挟雑。
・また2種類あるいは3種類の証候を同時に持っている。
・標、本を見分けて、病態に応じた治療を施す。

(肝火上炎、心肝火旺、肝陽上亢、それに痰湿がからんだ疾患など、虚実 の割合、標実本虚、多臓腑疾患の場合、中心となる臓はどれかなど)

臨床においては、他臓腑の病理と痰湿、血などがからんでくるのが普通なので、問診により精神状態や飲食の仕方、随伴症状などを詳しく把握し、総合的な診断を行います。

問診では、発病の時期、痛みの部位・程度・種類・起こり方、増悪要素、食生活、随伴症状などを聞き取る。
・部位
 後頭部から項にかけての痛み(太陽経頭痛)
 前額部から眉稜骨の痛み  (陽明経頭痛)
 頭側部から耳にかけての痛み(少陽経頭痛)
 頭項部から目にかけての痛み(厥陰経頭痛)

たとえば痛みの部位は六経弁証によれば、太陽頭痛では後頭部の痛みがよく見られ、その痛みは頭頂部にまで及びます。
陽明頭痛では額部の痛みがよく見られ、その痛みは眉毛にまで及びます。
また、少陽頭痛では側頭部の痛みがよく見られ、その痛みは耳にまで及びます。
厥陰頭痛では頭頂部の痛みがよく見られ、その痛みは目にまで及びます。

このようにして、一人一人弁証して、個々の証候に合わせて治療を施すことが、機能性頭痛を改善に導くことに大変重要である。

※効果や感じ方は人によって異なります

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